東京高等裁判所 昭和30年(う)626号 判決
被告人 江藤正人
〔抄 録〕
論旨第一点について。
(一) 本件第一の犯行の原因となつたのは、被告人が昭和二十九年九月十三日頃日の基デパート内飲食店で三共株式会社員佐藤清(当時十八歳)と口論したことがあり、佐藤が飲食代金二百十円を所持していなかつた為被告人が立替え支払つたところ、佐藤がその後挨拶にも来ないで立替金の返済を放置したからであり、佐藤の所為の不都合なことはいうまでもない。しかし根が酒の上の事であるし、金額も僅かのことであるから、年の若い佐藤と口論したことを反省するだけの良識があるなら、そのまま放置しても済む問題であり、佐藤の上司に対し部下の監督不行届を難詰し三共株式会社の詫証文を要求するほどの事件とは考えられない。然るに原判決挙示の証拠によれば、被告人はことさら三共株式会社人事課長六所五郎に面接し佐藤清から金二百十円の取立を要求し、六所に於て調査の結果佐藤の不始末を発見し、佐藤と共に被告人方事務所に来つて陳謝し、立替金の支払も受けたに拘らず、なお会社の詫証文を要求し、更に陳謝のため被告人の事務所を訪れた同会社拡張課長長崎明に対しても佐藤の事は年も若いし許してやるが、自分が会社に赴いた際の応待が怪しからぬといいがかりをつけて今お宅の事を色々調査している等と申し向けているのであるから、被告人が同年七月頃から政経人事新聞を発行していることを匂はせ、佐藤に対する立替金返済要求に絡み三共株式会社から金員を喝取せんとしたものであり金を出せと明言しないまでも暗に金員を提供しないなら、三共株式会社を誹謗する記事を右新聞に掲載するが如き気勢を示したものというべく、所論のように被告人の意図や行動と関係なしに六所五郎や長崎明が一方的に金を出さなければ解決し得ないものと独断畏怖したとはいえない。従つて被告人が同月二十二日頃長崎明から金二万円を受け取つたのは、三共株式会社としては敢て問題に採り上げるほどの金額でないとしても、この金員は被告人が前記のとおり詫証文を要求し或は会社のことを調査している等といつて二万円を払わせるようにし向けたからであることも明白である。要するに被告人の叙上の所為は恐喝罪に該当することは明らかであつて、原判決の事実認定には誤がない。